iPS 細胞の臨床応用。

京都大学 物質-細胞統合システム拠点/再生医科学研究所 山中伸弥 教授が発表した iPS 細胞の臨床応用へ向けて大型予算が組まれ、その取り合いに日本中上へ下への大騒動である。5 年以内に日本で先んじて臨床応用が可能であると、本気で考えているのであろうか?現在のままでは不可能であり、5 年以内に環境が変わるとも到底思えない。以下に理由を列挙する。
1. c-myc を使う使わないにかかわらず、レトロウイルスで遺伝子導入した細胞をヒトに戻し、増殖するかどうかを検討する臨床試験を認可するためのデータ、及び人材が、日本にはない。よって、厚生労働省は判断を留保せざるを得ず、外国での結果を待とうと言うことになる。
2. 日本の社会、メディアには前例のない、安全性の確認のされていない臨床試験を認可するだけの成熟した土壌がない。世界に先んじて認可する可能性はゼロに等しい。
3. 奇形種等の悪性腫瘍を誘導してしまう可能性のある iPS 細胞による遺伝子細胞治療を、実施することを何とか正当化出来る患者集団は、末期癌患者だけであろう。それでは臨床試験の目的に合致しない。
4. 臨床試験に参加する患者費用を誰が支払うか、不明である。
臨床試験の規制に関しては、差がありすぎて日本とアメリカを比較することさえはばかられる。FDA は認可するために規制を設けているのに対し、厚生労働省は認可しないために規制を設けている。はなから考え方に相違がある。
大型予算を、研究費そのものではなく、臨床試験を進めるための費用、多くは人件費にあてがわない限りこのままでは日本に勝ち目はない。基礎研究にかかる費用は、臨床試験にかかる費用に比べれば雀の涙であることをよく考えて欲しい。